日銀が利下げしても、変動金利が下がるとは限らない理由 —「定価」と「割引」の仕組み

「変動金利で借りておけば、いつか日銀が利下げしたときに、返済も楽になる」
名前が「変動」ですから、そう考えるのは自然なことです。 ただ、変動金利の中身を分けて見ると、利下げがあっても、すでに借りている人の金利は下がらないことがあります。
この記事では、その理由を「定価」と「割引」という2つの言葉でご説明します。
1. 変動金利は「定価 − 割引」で決まります
住宅ローンの変動金利は、次の引き算で決まります。
適用金利(実際に払う金利)= 基準金利(定価)− 優遇幅(割引)
| 用語 | 言い換えると | 誰が、いつ決めるか | 例 |
|---|---|---|---|
| 基準金利 | 定価 | 銀行が決める。借りている人全員に共通 | 3.0% |
| 優遇幅 | 割引 | 契約のときに決まる。原則、完済まで変わらない | ▲2.0% |
| 適用金利 | 実際に払う金利 | 上の引き算の結果 | 1.0% |
※ 数字は仕組みを説明するための例です。
基準金利は、多くの銀行が「短期プライムレート」(銀行が信用力の高い企業に、1年以内の期間でお金を貸すときの金利)をもとに決めています。日銀の政策金利の影響は受けますが、いつ、どれだけ動かすかを決めるのは銀行です。
大事なのは、割引は契約のときに決まっているという点です。借りたあとに適用金利が動くのは、定価である基準金利が動いたときだけです。
2. 利下げのあと、銀行は「新規の割引」を広げることがあります
日銀が利下げをしても、銀行が基準金利を下げなければ、借りている人の金利は変わりません。
一方で銀行は、新しいお客様に選んでもらうために、これから借りる人の優遇幅を広げることがあります。そうなると、次のような差が生まれます。
| 基準金利 | 優遇幅 | 適用金利 | |
|---|---|---|---|
| あなた(契約時) | 3.0% | ▲2.0% | 1.0% |
| 利下げ後に、新しく借りる人 | 3.0% | ▲2.3% | 0.7% |
| 利下げ後の、あなた | 3.0% | ▲2.0% | 1.0% |
定価は同じ3.0%。変わったのは、新しく借りる人の割引だけです。
借入額3,000万円・35年返済(元利均等・ボーナス払いなし)で計算すると、金利1.0%なら毎月84,686円、0.7%なら80,556円。差は毎月およそ4,100円、1年でおよそ5万円です。
3. 実際にあったこと — 2016年から2024年
これは仮の話ではありません。
日本銀行の統計によると、短期プライムレート(最も多くの銀行が採用した水準)は、2009年1月から2024年8月まで、15年以上にわたって1.475%のままでした。この間の2016年に、日銀はマイナス金利政策を導入しています。それでも短期プライムレートは動かず、大手銀行の基準金利は2.475%のままでした。
その一方で、新しく借りる人の金利は下がり続けました。
| 時期 | 対象 | 基準金利 | 優遇幅 | 適用金利 |
|---|---|---|---|---|
| 2016年1月 | 新規で借りた人 | 2.475% | ▲1.85% | 0.625% |
| 2024年1月 | 新規で借りる人 | 2.475% | ▲2.13% | 0.345% |
| 2024年1月 | 2016年に借りた人 | 2.475% | ▲1.85%のまま | 0.625% |
※ 大手銀行の代表的な変動金利の例。2016年の優遇幅は、基準金利と適用金利の差から計算しています。
定価は8年間同じ。新規の割引だけが広がり、同じ時期でも、借りた年によって0.28%の差がつきました。
4. 「必ず下がらない」わけではありません
公平のために書いておくと、利下げで金利が下がったこともあります。
2008年の秋から冬にかけて日銀が利下げをしたとき、短期プライムレートは1.875%から1.675%(2008年11月)、さらに1.475%(2009年1月)へ下がりました。このときは基準金利も下がり、すでに借りている方の金利も下がっています。
つまり、基準金利を下げるかどうかは銀行の判断しだいです。「下がる」とも「下がらない」とも決まっていない。これが正確なところです。
5. 上がるときは、いっしょに上がります
割引が固定されているということは、定価が上がれば、そのぶん払う金利も上がるということです。
2024年以降、日銀は利上げを続けており、2026年9月には政策金利を1.25%へ引き上げました。短期プライムレートも1.475%から2.375%(2026年8月)まで上がっています。ある大手銀行が公表している例(優遇幅▲2.13%)では、次のとおりです。
| 時期 | 基準金利 | 適用金利 |
|---|---|---|
| 2024年1月 | 2.475% | 0.345% |
| 2025年4月 | 2.875% | 0.745% |
| 2026年9月 | 3.375% | 1.245% |
※ 実際に金利や返済額へ反映される時期は、契約内容によって異なります。
6. 借りる前に、確かめておきたい3つのこと
① 「利下げで返済が楽になる」を、計画の前提にしない いまの金利で返せるか。さらに上がっても返せるか。その2つで借入額を決めておくと、利下げがなくても困りません。
② 金利だけでなく、「優遇幅」を確かめる 見るべきは、いまの適用金利だけではありません。優遇幅が完済まで続くのか、途中で変わる条件がないかを、契約の前に確認しておきたいところです。
③ あとから下げる手段は、借り換え ほかの銀行に借り換えれば、そのときの新規の優遇幅で借り直せます。ただし事務手数料や登記費用などの諸費用がかかるため、金利の差と残りの返済期間を比べて判断します。いまの銀行に金利の見直しを相談する方法もありますが、応じてもらえるとは限りません。
そして、いちばん大切なのは借入額です。金利はあとから選び直せても、借りた金額は変わりません。
まとめ
変動金利は「基準金利(定価)− 優遇幅(割引)」で決まり、割引は契約のときに固定されます。日銀が利下げをしても、銀行が定価を動かさなければ、借りている金利は下がりません。
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※ 本記事は仕組みの説明を目的としたもので、特定の金融機関・商品をおすすめするものではありません。金利や条件は金融機関・審査内容によって異なります。数字は2026年10月2日時点で確認できた公表情報にもとづいています。
出典
- 日本銀行「長・短期プライムレート(主要行)の推移」
- 三菱UFJ銀行「住宅ローンの金利の仕組みとは?基準金利と適用金利の違いについて解説!」
📌 キーワード: 変動金利 / 利下げ / 基準金利 / 優遇幅 / 住宅ローン 借り換え